白い牙



子どものころ、ジャック・ロンドンの「白い牙」という小説を絵本にしたものが家にあって愛読していました。大人になってから小説版を読み返してみたらとてもよかった。

「登場人物が雪原で飢えた狼の群れに囲まれて、今まさに食い殺されそうになっている」 というシーン。仲間もそりを引く犬たちもみんな食われてしまって絶体絶命の状況の中、その人はふと自分の手を眺めて「なんて精密で美しいものなんだろう」と思う。死を覚悟したときにその人の目に飛び込んできたものが自分の身体に流れる生命力の豊かさや美しさであることに心動かされたし、生と死の対比があまりにも鮮やかで美しいなあと思ったのでした。

一昨年乳がんがわかり、自分の命には限りがあるのだなあということを身に染みて実感しました。化学療法の点滴から数日の間は体調が落ちて寝ているしかなく、でも日がたつごとに少しづつ盛り返して元気になっていく自分の身体の生命力を頼もしく眺めて過ごしました。「白い牙」ほどダイナミックではなかったけれど、あの時間は日々の生活の中で自分の生を支えてくれている身体への信頼を育んでくれたなあと思います。

死や病や老いや不調を忌むばかりでなく、それと対をなして立ち上がってくる自分の生命力に意識を向けてみるのもまた味わい深いと感じます。

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